「ベーシックインカム」と対比してよく話題に出てくる制度が「生活保護」。
両方ともお金が給付される制度ではありますが、両制度の性質はまったく異なります。
ここでは、ベーシックインカムと生活保護の違いについて解説するとともに、ベーシックインカムと生活保護に対する僕の思いを書き記します。
ベーシックインカム制度について詳しく知りたい人は、こちらの記事をごらんください。
ベーシックインカムと生活保護の違い
ベーシックインカムと生活保護には大きな違いがあります。
違いを5つに分けて解説します。
受給対象者
■生活保護
生活保護を受給するためには、所得・資産・家族からの支援・勤労の可能性などさまざまな条件を満たす必要があります。
ちなみに、厚生労働省で定める生活保護の受給資格は以下の通りです。
生活保護を受けるための要件及び生活保護の内容
◇保護の要件等
生活保護は世帯単位で行い、世帯員全員が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することが前提でありまた、扶養義務者の扶養は、生活保護法による保護に優先します。
◇資産の活用とは
預貯金、生活に利用されていない土地・家屋等があれば売却等し生活費に充ててくださ
い。
◇能力の活用とは
働くことが可能な方は、その能力に応じて働いてください。
◇あらゆるものの活用とは
年金や手当など他の制度で給付を受けることができる場合は、まずそれらを活用してください。
◇扶養義務者の扶養とは
親族等から援助を受けることができる場合は、援助を受けてください。
そのうえで、世帯の収入と厚生労働大臣の定める基準で計算される最低生活費を比較して、収入が最低生活費に満たない場合に、保護が適用されます。
厚生労働省HPより引用:生活保護制度 |厚生労働省
■ベーシックインカム
ベーシックインカムは国民であれば年齢・性別・有職無職に関わらず、誰もが受給することができます。
条件が必要なのが生活保護、無条件なのがベーシックインカムですね。
制度のシンプルさ
■生活保護
生活保護は受給条件が厳しいため、対象者・申請者に対して多くの審査・調査をする必要があります。
また、条件が厳しいため、自分が対象者なのか条件を満たしているのかを理解していない人が多いという現状もあります。
実際、生活保護受給資格を持つ人の内、約80%が受給できていないという問題もあります。
■ベーシックインカム
ベーシックインカム制度は至極単純です。
毎月すべての国民に現金を給付するだけなので、複雑な審査や調査は必要ありません。
労働意欲
■生活保護
生活保護の場合は、働いて一定額以上所得を得たら受給資格がなくなります。
つまり、生活保護がもらえなくなります。
これが、生活保護が労働意欲を削ぐ大きな要因です。
■ベーシックインカム
ベーシックインカムの場合は、働いても働かなくても一定額の現金が給付されるため、労働意欲への影響は生活保護より少ないと考えられています。
ただし、生活できる最低限の所得を無条件で得てしまったら働かなくなる人が多く出てくるのではないか、といった声はあります。
(筆者は、ベーシックインカムによって労働意欲が著しく低下することはないと考えています。ヨーロッパで行われた社会実験によって、労働意欲が低下する可能性は低いというデータがあります。これについては別の記事で書きます)
行政手続き
■生活保護
生活保護は、不正受給などを防ぐための厳しい審査があるため、受給希望者全員に対して身辺調査をする必要があります。
そのため、行政では生活保護に関する多くの業務を担うことになります。
■ベーシックインカム
ベーシックインカムは、生活保護と異なり対象者を選定する必要がないため、行政の仕事は少なくなります。
また、身辺調査や書類などにかかる費用も生活保護と比べてかなり少なくなります。
給付金の受け取りへのうしろめたさ
■生活保護
生活保護受給者は、自分が「働けないこと」「支援者が身近にいないこと」「資産がないこと」を証明しなければ生活保護費を受け取ることができません。
それはつまり、自分が貧乏である・社会的弱者であることを、嫌でも認めさせられることでもあります。
受給者ではない人は自ら働いて生計を立てているのに対し、受給者は事情があるとはいえ働かずに生計を立てることができるので、うしろめたさを感じる人が多い傾向があります。
■ベーシックインカム
ベーシックインカムは、貧富に関わらず誰もが受給できるので、誰かと比較して自分が劣等感を感じる必要がありません。
誰もが平等に受給できる制度なので、お金を受け取ることへのうしろめたさはなくなります。
なんでベーシックインカム?生活保護じゃだめなの?
生活保護という社会保障制度があるのに、何故ベーシックインカムという新たな制度の導入についての議論が日本でも出始めたのか。
それには少子化問題・ブラック企業問題・低賃金問題などさまざまな要素が絡んでいますが、一つの理由としては生活保護という制度が、実態を見るとちゃんと機能していないということが浮き彫りになったからです。
生活保護の実態について、日本弁護士連合会のサイトに詳しく書いてあったのでまとめました。
生活保護受給者が増えている?
生活保護受給者と人口との関係は次のようになります。
2011年度 | 1951年度 | |
人口 | 1億2700万人 | 8457万人 |
生活保護利用者数 | 214万2000人 | 204万6000人 |
利用率 | 1.7% | 2.40% |
1951年に生活保護制度が始まってから、たしかに利用者数は増えていますが、それは人口が増えたためです。
実際の人口に対する割合を見ると、制度施行当初より少ないことがわかります。
「生活保護利用者が増えている」という報道がありますが、人口から見ると至極当たり前のことで、問題視する必要はないのです。
むしろ気にするべきは次の点です。
生活保護の捕捉率が低い
捕捉率とは、受給資格がある人のうち実際に受給できている人の割合です。
2010年の少し古いデータではありますが、日本の生活保護の捕捉率は15.3~18%です。
同じ先進国のドイツが64.6%、フランスが91.6%というデータと比べると、これは極端に低い値です。
生活の支援を本当に必要としている人が、生活保護というセーフティネットの恩恵を受けることができていないのです。
その背景には、制度そのものの複雑さや受給資格の厳しさと、受給することへのうしろめたさが大きく影響していると考えられます。
以上のことから、生活保護だけでは貧困を改善することができないと考えることができます。
まとめ:ベーシックインカムと生活保護
ベーシックインカムと生活保護の違いをまとめると次のようになります。
生活保護 | ベーシックインカム | |
受給対象者 | 条件を満たす人 | 無条件で国民全員 |
制度のシンプルさ | 複雑 | シンプル |
労働意欲 | 低下を招く | 低下のおそれは少ない |
行政手続き | 多い | 少ない |
受給へのうしろめたさ | あり | なし |
もちろん、ベーシックインカムにもデメリットはあります。
ベーシックインカムのメリット・デメリットについては、こちらの記事をごらんください。
近い将来導入されるかもしれないベーシックインカム。
生活保護に代わる、あるいは補完する貧困救済のセーフティネットになることを願います。
あくまで個人の感想です!でも個人的にはベーシックインカムの導入に賛成なので、日本でも導入するべきだと強く感じます。